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ダービー 鳥と犬のグループ像(1750-55年頃)
A Derby Group of Two Birds and A Dog C.1750-55
ダービーの最初期であるドライエッジ期(1750-55年頃)の鳥と犬のグループ像。二又に分かれた木の幹に2羽の鳥がとまり、木の下から一匹の犬がそれを見上げている。釉薬をかけた白磁像であり、エナメルや金彩の装飾は一切ない。ドライエッジ期の作品は大半がフィギュアで、鳥や動物の像も多数作られた。この時期の作品には、その名の通り土台の縁に釉薬がかかっていない部分があることが多いが、本作品ではその特徴は見られない。一方で1756年にウィリアム・デュズベリーが経営者となって以降の特徴である裏面のパッチマークも見られない。裏面中央部分には焼成時の空気抜き用の穴があるが、その穴の周辺部が若干凹んでいる。またその凹んだ部分に網目状の切込み跡が見られるが、その意味は不明である。
本作品と類似の作品はボウでも作られており製造窯の判別はそれほど簡単ではないのだが、背面下部にある穴(燭台などの金属支柱を取り付けるためのもの)の形が丸いこと(ボウの場合は穴の形が原則として四角か三角)が最大の判別ポイントとなる(2番目の写真を参照)。ダービー磁器国際学会(Derby Porcelain International Society)にフィギュアを議論する特別グループがあるのだが、そのメンバーに本作品の写真を見てもらったところ、断定はできないが恐らくダービー(ドライエッジ期)の作品だろうという判断であった。その際の根拠として挙げられたのは、上記の背面の丸い穴に加えて、裏面の状態(空気穴の形状を含む)、取り付けられた花の形状(イチゴ形の花びら、花芯の十字('hot cross bun'と呼ばれるパンの形)、若干重ために成型された葉)、それに釉薬のクリーミーな色合いといった特徴であった。
なお、ダービーとボウとでは、そもそもの違いとして、素地の組成の違い(ダービーがガラス質のいわゆるフリット磁器であるのに対して、ボウは骨灰を用いたリン酸磁器であること)や、フィギュアの作成方法の違い(ダービーはslip cast方式(型の中に液体状の素地を流し込み、ある程度乾いたら余分な素地を流し出す方式)であるのに対して、ボウはpress moulding方式(型の内側に粘土状の素地を指などで押し付ける方式)であること)があげられる。しかし、こうした違いは、色合いが明確に違う場合やフィギュアの内側を見ることができる場合などを除けば、作品を見ただけでは判然としないことも多く、本作品に関しても判別の明確な基準とはなりにくいように感じる。
ヴィクトリア&アルバート(V&A)博物館には本作品の類似例が2点あり、どちらも下記サイトで見ることができるが、本作品と同じ白磁作例は製造窯不明、またもう一点の彩色作例はボウ作品と表示されている。しかしダービーの専門書(下記参照文献に記載の最初の4冊)では、どちらもダービー作品だとされており、専門家の間でも必ずしも見解が一致しているわけではないようである。
V&A博物館収蔵作品:
(白磁作品)https://collections.vam.ac.uk/item/O337156/figure-group-unknown/
(彩色作品)https://collections.vam.ac.uk/item/O249301/figure-group-bow-porcelain-factory/
<追記>
本ページ掲載直後の2024年11月に、Bonhamsのオークションで本作品に極めて類似した作品が販売された。
https://www.bonhams.com/auction/29604/lot/185/a-bow-white-group-circa-1756-58/
このBonhamsの作品はボウ作品だと表示されている。追加の写真を取り寄せてみると、金属支柱を取り付けるための背面の穴は四角であり、また台座裏面(の多く)に釉薬が掛けられていることが判明した。これはどちらもボウ作品の特徴であり、ドライエッジ期ダービー作品とは異なるものである。なお、この作品は本ページのダービー作品とサイズもほぼ同じであり、一方が他方の作品から型をとってコピーしたものではなさそうである。外部の同一造形師が製作した型をボウとダービーが各々購入して磁器グループを製造した可能性もあると考えられる。
高さ(Height):16cm
マーク:なし
Mark:None
参照文献(References):
- F. Brayshaw Gilhespy "Crown Derby Poecelain" Figs.189-190 and pp.98-99
- Dennis G. Rice "Derby Porcelain The Golden Years 1750-1770" Plate 35
- Peter Bradshaw "Derby Porcelain Figures 1750-1848" Model B5 (p.32)
- Stuart Shepherd "Derby Porcelain Figures 1750-1848 An Illustrated Catalogue" Model A20 (p.14)
- Yvonne Hackenbroch "Chelsea and Other English Porcelain, Pottery and Enamel in the Irwin Untermyer Collection" Figure 253 and pp.183-184 (a pair of Bow examples). See also the website of the Metropolitan Museum of Art for one of the pair: https://www.metmuseum.org/art/collection/search/203549
- Anne McNair "Catalogue of the Lady Ludlow Collection of English Porcelain at the Bowes Museum" Catalogue Nos.32-33 (Bow examples)
(2024年11月掲載、同年12月更新)